こんにちは、船山内科の船山です。早期の診断と個別対応が求められる、がんの糖尿病管理について2回に分け解説します。
糖尿病とがんは共通の危険因子(高齢、肥満など)があります。特に2型糖尿病ではがんの進行や治療による高血糖のため治療が複雑になることがあります。
特に悪性リンパ腫をはじめ血液腫瘍の糖尿病管理は予後に大きな影響を及ぼします。2型糖尿病に伴う代謝の変化が、がん治療の効果や安全性に影響するためで、治療は複雑で重要な意義を持ちます。
例えば、悪性リンパ腫治療中は代謝変化による血糖コントロール難化などに直面します。化学療法やステロイド治療は高血糖を誘発します。感染症や糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)など重篤な合併症のリスクも高まります。これらは治療反応の低下や生存率の悪化とも関連しています。
代表的な例としてステロイドによる血糖値急上昇、食事量減少による低血糖があります。
血液がんの治療は化学療法に伴う大量のステロイド投与が行われます。プレドニゾン、デキサメタゾンなどが代表例です。こうしたステロイド投与は、インスリン抵抗性が高まって高血糖を呈しやすくなります。血液がんはほかよりステロイド投与量が多いレジメンを多用していることもあり、血糖値が上昇しやすく、糖尿病管理を一層複雑にします。
研究ではステロイド療法中の患者の約39%が高血糖を発症すると報告されています。これが糖尿病管理上の大きな課題となっています。
化学療法や放射線治療の副作用や原疾患の進行により食欲が低下し、食事量が減少することがあります。食事量が不安定になると低血糖リスクやインスリン量の調整などが課題となります。
ステロイドによる高血糖と食事量減少による低血糖リスクが混在することで、血糖コントロールはさらに複雑化し、糖尿病管理が難航します。
近年、悪性リンパ腫の患者数は増加傾向にあります。 理由としては高齢化の進行や診断技術の向上などが考えられます。びまん性大細胞性B 細胞リンパ腫(DLBCL)は、非ホジキンリンパ腫の中でも最も一般的なサブタイプとされています。本邦の悪性リンパ腫の80%以上を B 細胞リンパ腫が占め、そのうち DLBCL がほぼ半数の 40% を占めます。DLBCLは高齢者に多く見られ、患者の約半数は70歳以上です。
血液腫瘍(悪性リンパ腫や白血病など)では、固形がんと比べてはるかに高用量のステロイドが化学療法に組み込まれることが多く、代表的な例がR-CHOP療法です。特にプレドニゾンは1日あたり100mgを5日連続投与し、3週間ごとに数サイクル行うなどきわめて大量で、血糖値への影響は非常に大きくなります。
固形がんでもステロイドは使われますが、通常は短期・低用量が中心です。一方で血液腫瘍は、全身的で強力な治療が必要とされるため、ステロイド使用量も自然と多くなります。R-CHOP以外のレジメン(Hyper-CVADなど)でも繰り返し高用量ステロイドが使われることがあります。こうした大量投与には糖尿病の悪化や糖尿病発症リスクが上がる点を常に念頭に置き、注意深い血糖モニタリングと管理が欠かせません。
糖尿病とがんは、高齢や肥満などの共通の危険因子を有します。そのため2型糖尿病患者では一般集団よりがん発症リスクが高いと報告されています。実際に肝臓がんや膵がん、子宮内膜がんなどのがんが、この可能性を指摘されています。また、インスリン抵抗性や慢性炎症を伴う糖尿病特有の代謝異常は、がん細胞の増殖や進行を促す一因となることも懸念されています。
さらに、糖尿病に伴う代謝・生理学的変化は、がん治療を複雑化する要因になります。たとえば、化学療法や手術時の血糖コントロールが難しくなることで、感染症リスクや合併症の発生率が上昇し、治療効果に悪影響を及ぼす場合があります。ステロイドや制吐薬など、がん治療において使用頻度の高い薬剤は血糖値に影響する可能性があるため、早期からの血糖モニタリングや管理が不可欠です。
化学療法には既存の糖尿病の悪化、新たな糖尿病の発症といったリスクがあります。そしてこうしたリスクは、治療・管理上の大きな課題となります。
がん治療に伴う代謝ストレスや炎症反応によって血糖値は大きく変動し、炎症マーカーの上昇とともに血糖調節の乱れが生じることが示唆されています。炎症と高血糖は互いに悪化しあう双方向の関係にあるため、早期からの対策が重要です。
顕著な高血糖は、脱水、感染症、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)など重篤な合併症の原因となります。がん治療の転帰や患者の予後にも重大な影響を及ぼします。食事、定期的な運動、個々に調整された薬物療法の包括的なアプローチが必要です。特にがん治療との併用では血糖値モニタリング頻度を増やすなど柔軟な調整を行います。
がん治療開始前や入院時点ですでに未診断の糖尿病がある患者さんは少なくありません。入院患者の約23%が糖尿病を有している報告もあり、定期的な血糖検査が望まれます。
すべての患者が直ちに血糖検査を受けるわけではなく検査が遅れることもあります。また、ステロイドの影響で、高血糖の原因が既存の糖尿病であるのか治療に起因した糖尿病であるかを判別しにくい状況が生じます。
私のこれまでの実臨床経験で「至急診察してほしい」と依頼を受けるケースが頻繁にありました。多くは、化学療法を開始した後や翌日に手術を控える患者さんでした。化学療法や手術の準備が進む過程で高血糖の把握が遅れることは珍しくありません。
糖尿病の早期診断と適切な治療管理が、がんの治療に影響することをご説明しました。治療は複雑で個別管理が必要です。がん治療中の糖尿病管理が難しい場合は、糖尿病専門医など医療機関にご相談ください。定期的なモニタリングを行い、ご自身の状態を把握することが大切です。
相談しながら、ご自身に合った治療計画を立て、生活と治療のバランスをとりましょう。
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次回の記事では、がん治療中の糖尿病管理のポイントと考慮事項についてご説明します。
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