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がんの糖尿病管理(後半)|実践的な対応と注意点

こんにちは、船山内科の船山です。この記事では、がん治療中における糖尿病管理の実践的な対応についてお伝えします。前回の記事では、血液がんを例に、ステロイドによる高血糖や化学療法の影響についてご説明しました。今回は、実際の管理方法や注意点、治療中に起こり得る急性合併症への備えについて、もう少し踏み込んで解説します。

がん治療中の糖尿病管理:4つの柱

がん治療に伴う糖尿病管理では、状況に応じて迅速かつ柔軟な対応が求められます。ここでは、管理の柱となる4つの視点をご紹介します。

1. 頻回な血糖モニタリングと薬剤調整

化学療法やステロイド治療を受けると、血糖値は大きく変動します。インスリンの定期投与だけでは対応しきれない場合、カーボカウントや修正ボーラスの活用が必要です。さらに、著しい高血糖が続く場合は、シリンジポンプによる静脈的なインスリン投与が検討されます。

2. 栄養管理とインスリンの調整

治療の副作用によって食欲不振や食事量の減少が起こると、血糖値の調整が難しくなります。患者さんごとに異なる状況に応じた栄養計画と、それに連動したインスリン調整が重要です。

3. チーム医療と患者の自己管理支援

医師、看護師、薬剤師、栄養士などが連携し、患者さん本人も可能な範囲で自己管理に関与することが望ましいです。特に、極度の喉の渇きや頻尿といったサインに早期対応する体制が、重篤な合併症の予防につながります。

4. 教育と治療計画の共有

糖尿病とがん治療、それぞれの影響を患者さん自身が理解することで、治療方針への納得や自己管理への意欲が高まります。日常生活も見据えた管理計画を医療者と共有しておくことが、急変時にも役立ちます。

高血糖リスクとその対応

化学療法・ステロイド治療の影響

たとえばR-CHOP療法など、血液がんで用いられる治療は高用量のステロイドを含みます。これにより、インスリン抵抗性が高まり、高血糖が引き起こされます。また、吐き気や嘔吐、倦怠感といった副作用によって食事摂取が不安定になると、血糖の急変を招きやすくなります。

代謝ストレスと感染症リスク

がんと糖尿病の併存は、免疫力を大きく低下させます。高血糖は感染症のリスクを高め、がん治療の継続にも影響を与えかねません。代謝変化を見越して、血糖管理は治療の初期段階から意識して行う必要があります。

高リスク薬剤への注意

カルボプラチン、パクリタキセル、そしてステロイド製剤など、一部の抗がん剤は血糖を上昇させる作用があります。これらの薬剤を使用する際は、投与スケジュールと血糖モニタリングのタイミングを密に連動させることが重要です。

臨床現場での工夫と症例から学ぶ

認知機能が低下した方や、インスリン自己注射が困難な方では、周囲の支援体制が不可欠です。実際に、認知症がある高齢患者さんがインスリン自己管理を行えず、化学療法中に高血糖管理が難航した症例もあります。

インスリン療法のステップと工夫

通常の定期投与でコントロールが困難な場合は、カーボカウント(食事の炭水化物量に応じたインスリン量の調整)やコレクションボーラス(血糖値の修正投与)を併用します。それでも改善が見られないときは、シリンジポンプによる持続静注が行われることもあります。

参考文献:

  • Management of hyperglycemia in diabetic patients with hematologic malignancies during dexamethasone therapy(PubMed ID: 23337144)
  • A Practical Guide for the Management of Steroid Induced Hyperglycaemia in the Hospital(PubMed ID: 34065762)

ステロイドが血糖に与える影響とその特徴

ステロイドは以下の作用を通じて血糖値を上昇させます:

  • 肝臓での糖新生の促進
  • 筋肉・脂肪組織でのインスリン抵抗性の増大
  • 膵臓β細胞の機能低下
  • ストレスホルモンの増加
  • 炭水化物代謝の変化

さらに、ステロイドの種類によって作用時間や血糖ピークのタイミングも異なるため、それぞれの特性に応じた対応が必要です。

ステロイド名作用時間血糖上昇開始血糖ピーク持続時間
ヒドロコルチゾン短時間型1~2時間2~4時間6~8時間
プレドニゾン中時間型2~4時間4~6時間12~16時間
メチルプレドニゾロン中時間型2~4時間4~8時間16~24時間
デキサメタゾン長時間型4~6時間8~12時間24~48時間

自験例としてデキサメタゾン投与中に食思不振となり、エドルミズを服用して糖尿病ケトアシドーシスを発症した症例を日本糖尿病学会学会誌に報告しています。

(参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/67/6/67_252/_article/-char/ja/

免疫チェックポイント阻害薬と糖尿病

最近では、免疫チェックポイント阻害薬による急性高血糖や、1型糖尿病の発症も報告されています。糖尿病未診断だった患者さんが、治療を契機にケトアシドーシスを起こした症例も確認されています。

急性合併症への備え

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高浸透圧高血糖症候群(HHS)といった急性合併症は、早期発見・早期対応が鍵です。血糖の急激な上昇や脱水兆候、意識変容などがあれば、すぐに医療機関にご相談ください。

まとめ

がん治療中における糖尿病管理は、治療成功にも直結する重要な要素です。患者さんご自身と医療者が一緒に、日常生活を含めた管理計画を共有することが、合併症予防と生活の質の維持に役立ちます。個別に状況が異なりますので、お困りの際は糖尿病専門医やかかりつけ医にご相談ください。

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